今どきのIoT考察

IoTは低価格でできる。中小企業で始まるIoTへの取り組み。

1個たった50円のセンサーから、4億円以上のコスト削減に成功した企業をご存知でしょうか。
愛知県のトヨタ自動車系部品メーカーである旭鉄工 は、中小企業ならではの創意工夫によって、製造工場のIoT化を実現しました。
結果、残業0、休日出勤0、そして大幅な生産性の向上を成し遂げたのです。
そう、もはやIoTは安価でできる時代。今回は、製造業に携わる中小企業ができるIoTへの取り組みとはどういったものなのか、事例を交えてご紹介しましょう。

ドイツ発、インダストリー4.0時代の到来

はじめに、本コラムの要となる「インダストリー4.0」について触れておきます。
インダストリー4.0とは、日本語に直すと「第4次産業革命」となりますが、日本では2015年ごろから喧伝されるようになりました。
インダストリー4.0は、もともとドイツで政府主導の下、2011年に採択され、2013年にスタートした生産革命です。
そこには、ドイツ中の工場をIoTの導入によって「スマート工場」化し、国を挙げて生産性を向上させ、世界一の製造大国を目指すという目論見がありました。

インダストリー4.0の核心となるのが、CPS(サイバーフィジカルシステム)というシステムです。CPSは、たとえば制御対象となる物にセンサーなどをつけ、IoT機器でデータを収集、ビッグデータとして蓄積されたそれら情報をAI(人工知能)によって分析することで、これまでにない知見を引き出す仕組みのことです。
インダストリー4.0の中心を担うスマート工場とは、こうした仕組みを持った製造現場のことで、生産性のさらなる向上や自動化を実現するために欠かせないものとなっています。
スマート工場でできることとして、たとえばコストがかかるオーダーメイドのような製品を、工場で大量生産と同等のコストで製造できる「マスカスタマイゼーション」があります。それから、IoTによって製品の消耗度合いを検知し、顧客にメンテナンスや稼働率向上の施策を提供する「サービタイゼーション」も可能になります。スマート工場化によって、製造業は「製造したものを販売する」だけに止まらず、その後のサービスによっても利益を得るようになっていくのです。

インダストリー4.0については、ここでは概要を触れるにとどめますが、またの機会に詳しく語ってみたいと思います。

生産性と競争力を上げるスマート工場

たった2,500人の従業員で、1,300億円も売り上げるというドイツの高級キッチンメーカー・ノビリアも、スマート工場によって競争力を上げた企業のひとつです。
高級キッチンという特性上、各家庭ごとに異なるデザイン要求や仕様に応える必要があるため、基本的に製品は特注仕様です。そのため、手づくりされるのが一般的ですが、ドイツは世界でも人件費の高い国であるため、いかにしてコストを削減するかが課題となっていました。
そこで、ノビリアが採用したのが製造ラインの自動化です。



材料から部品をつくる前工程を木工用工作機械に、部品を完成品に組み立てる後工程を産業用ロボットにやらせることで、大幅に人員を削減。さらにこのとき、生産工程のあらゆるポイント(たとえば工作機械の電流値やモータの振動、切り屑の形状、温度など)ごとにデータを記録しており、それらを活用することで品質の向上につなげています。

こうしたドイツの動きは、アメリカをはじめ世界へと広がりつつあります。
世界が認める高い“職人技術”をして「ものづくり大国」を称していた日本も例外ではなく、世界に遅れをとらないためにはスマート工場による高度な生産システムの確立が必須です。
それは大企業に限らず、むしろ中小企業こそが社運をかけて取り組むべきプロジェクトかもしれません。デジタル革命が中小企業にもたらすチャンスは大きいのです。

「つながる」工場へ。中小企業によるIoTへの動き

日本でも、IoTへの取り組みに乗り出している中小企業があります。
大手メーカーの製造業が多く集まり、これらを支える中小製造工場が集中している兵庫県神戸市では、ドイツ発信のインダストリー4.0を“日本版”インダストリー4.0として実践しています。

従来、元請けメーカーが工場へ発注を行う場合には、「のこぎり型」発注が一般的でした。
航空機のように、非常に多くのパーツから成り、それぞれに高い技術が求められる機械の場合、一般的に各部品の製造・加工は複数の工場で個別に行われています。
元請けはまず、はじめに発注した工場Aから納品された部品を検収し、次に加工を行う工場Bへ渡します。工場Bから加工済み部品を納品されると、また元請けが検収し、次の工場Cへと受け渡します(以下同)。これが「のこぎり型」発注です。

品質の担保と進捗管理のためとはいえ、のこぎり型発注には業務が煩雑になる、納期が長くなる、などの課題がありました。
そこで、元来別々の企業である工場ABCDがIoTで相互に連携し、ネットワークで情報を共有することで、工場が個々で担う工程と品質を一元管理できるようにしました。これにより、異なる工場がまるで同一の生産ラインで稼働するかのごとく、工場Aは直接工場Bへ、工場Bは直接工場Cへの受け渡しが可能になりました。
品質を維持しながらも、納期の短縮と競争力の強化を図ることに成功したのです。

「つながる工場」として注目を集めたこ神戸市の取り組みは、中小企業の革新とも言える事例ではないでしょうか。

中小企業のIoTに注目!安価な部品で4 億円のコスト削減に成功

「IoTの導入」と聞くと、高コストなイメージからおよび腰になってしまう中小企業の社長さんもおられるかと思います。
しかしもし、中小企業でもIoTシステムの構築を低価格で実現できるとしたら、いかがでしょうか。
しかも1個たった50円のセンサーを使って、1億円以上の労務費低減と3億円以上の設備投資削減を成し遂げた企業が実際にあるとしたら……。

冒頭でも触れた旭鉄工は、トヨタグループ向けに自動車のエンジンやトランスミッション、ブレーキなどの部品を製造する、従業員約480人のメーカーです。
旭鉄工こそ、これまでに培ってきた技術力と知恵を駆使し、極めて低価格でのIoT導入を実現した企業です。

旭鉄工の取り組みは、2014年から始まりました。
最初の目的は、トヨタ生産方式(「自動化」と「ジャスト・イン・タイム」を基本思想とする、トヨタ自動車が確立した生産方式で、よい品質のものを効率的に生産し、より早く顧客の元へ届けることを目的とする)に取り組むに際しての「問題点の把握」でした。

まず着手したのは生産管理板の導入です。しかし実際にやってみると、従業員がホワイトボードの管理板にいちいち記入しなければならならず、非効率的な現状が問題視されました。
そこで、これを自動化するべく外部からのシステム導入を検討したのですが、数百万、下手すれば一千万規模のコストがかかることがわかり、断念。いっそのこと、すべて自社で開発してはどうか、という結論にいたったのです。

まずは各ラインの稼働状況を把握する表示板を無線技術によって自作。これが50万円と、外部から購入する場合と比較して10分の1に抑えることができました。
次に生産個数を増やすため、部品1個あたりの生産時間を把握する必要が出てきます。そこで、部品が1個完成するごとに点灯するライトを光センサーに感知させたり、部品が完成するたびにスイッチが動くような装置を自作することにしました。
ここで立役者となったのが、誰にでも手に入れられる安価な光センサーとリードスイッチでした。この2つを秋葉原の電気街で大量に購入し、製造設備に取り付け、上記のような装置を完全に自作したのです。光センサーは1個50円、リードスイッチは1個250円という安さでした。

安い部品と創意工夫によって、旭鉄工のIoTシステムは確立されました。
結果、驚くべきことに1時間あたりの生産個数は6割も増加。それにともなって、生産個数を増やすための設備増加は必要なくなり、前述の通り億単位のコスト削減が可能になったのです。
ちなみに同社は、自作したこのIoTシステムをビジネスモデルとし、外販するための子会社まで設立しています。

タブレット端末を活用し、生産性の向上につなげた中小企業もあります。
長野県中野市の飯山精器は、油圧機器部品や情報通信機器部品の金属切削加工を行う会社です。こうした業界で高まっているのは、多品種少量生産や納期短縮のニーズ。同社ではまず、現場担当者一人一人にタブレット端末を配布し、作業開始や作業終了時間、完成数、不良数、使用設備、設備サイクルタイムなどを入力させるようにしました。入力されたデータを無線でデータベースサーバに飛ばすことで、作業実績の収集ができるというシステムです。 これにより、在庫数や進捗管理がスムーズに行えるようになりました。

さらに、設備に取り付けた光センサー(3色灯)と小型のパソコンを接続し、設備が正常に稼働しているかどうかなどの監視をリアルタイムで行える仕組みもつくりました。これにより、設備の異常を早期に発見できるようになり、導入前と比べて機械の停止時間が減少しました。

IoTの貢献によって、飯山精器は課題となっていた納期の遅れを20件から5件に、製品・素材在庫金額を25%削減することができました。

東京都青梅市の武州工業は、コアとなるパイプ加工技術で自動車用金属加工部品や医療向け部品を製造している会社です。同社では、ウェブ版の統合管理システム「BIMMS」を構築していましたが、ここへスマートフォンやラズベリー パイ(イギリスで開発された小型シングルボードコンピュータ)をアドオンし、機械の稼働データを取得する装置としました。加速度センサーを内蔵したスマートフォンがデバイスとなり、機械の稼働状況を把握。取得したデータがBIMMSに反映されることで、製造部品数の動きが「見える化」されました。

武州工業では、こうしたIoTシステムの導入によって作業量が見えるようになり、作業者自身の予実管理が可能に。また、これまで経営者がわざわざ現場に行って確認していた作業状況も、リアルタイムに、しかも遠隔で把握できるようになったのです。

これら中小企業の事例を教訓とすれば、たとえ高価な部品や設備を購入しなくとも、創意工夫によってIoTシステムは構築でき、大きな成果を出すことも夢ではないかもしれません。

IoTで中小企業のQCDをいかにして向上させるか

旭鉄工のように、中小企業がIoTでQCDを向上させることを考えたとき、具体的にどのようなソリューションがありうるのでしょうか。
一般的に多くのケースでは、すでに各種の機器が運用され、色々な工夫とカスタマイズで改良されたオリジナルなシステムが稼働している状況が想定されます。しかし、それらの機器はIoT対応の仕様ではない場合が多く、たとえ対応していたとしても各メーカーの独自仕様や機能保証の点で制約が多いことがあります。いっそのこと、設備機器をIoT対応の機材に入れ替えてしまうという方法が早いかもしれませんが、それには大きな投資とリスクが伴います。何より、現在安定稼働しているシステムを使いながらIoT対応ができればいいのだが…という考えが自然です。

そこで、“IoT対応を足し算する”という考えはどうでしょうか?つまり既存の機器への変更は最小限に抑えて、IoTゲートウェイを追加することで、既存のシステムでは対応できなかった機能を”足して”あげるのです。

富士ソフトでは、IoTフォグコンピューティング・ゲートウェイというコンセプトを提案しています。これは、既存システムのセンサーデータ等を、ネットワークや各種インターフェースのプロトコルをIoTゲートウェイ側で吸収して、その膨大なセンサーデータをFPGAというプログラマブルなハードウエアで処理することで、従来のプロセッサ・ベースのシステムでは対応が難しかった大量のセンサーデータのリアルタム処理とそのデータを使ったコンピューティング処理を同時に実現できるものです。これにより、他の機器との連携やクラウドへの接続などのネットワーク機能も提供することが可能になります。
特長は、FPGAというデバイスを使うことで各種インターフェースを実装することができ、センサーデータのノイズ除去(フィルタリング機能)を行いながら、センサーデータの異常値の監視をしたり、システムの異常が起きる前にその予兆を見つけることなどが可能になること。さらには、クラウドと連携することで、それらセンサーデータを分析・蓄積・再利用などのビッグデータ活用も可能となります。
つまり、既存のシステムを利用してのIoT化を可能にする方法として、富士ソフトのIoTフォグコンピューティング・ゲートウェイを“足し算”することで、現状システムの見える化、連携、クラウド連携などの新しい機能を追加することができます。さらに、最近では組み込み機器にAI(人工知能)を導入することで、既存手法では難しかったレベルの効率化、省電力化、省人力化などが可能になりつつあります。富士ソフトでは組み込みAIの実装の観点でもIoTフォグコンピューティング・ゲートウェイを提案しております。

IoTをあなたの会社で始める前に知っておくべきこと

では、いざあなたの会社で、IoTを自分たちで始めようと思ったとき、システム要件における留意点など、どういったことをふまえておくべきか、少しお話ししておきましょう。

まず、重要なことは“見える化”です。現状のシステムがどのような状況なのかを客観的に数値化することで、全体の問題点が分析できます。見える化はさまざまなレベルで行うことが重要ですが、まずはシステム全体でどの部分がボトルネックになっているのか?どの工程が全体の流れを遅くしているのか?などの上位層からの見える化を行います。次に、その工程のどの機能が問題なのかの分析を行うことで、見える化をしていくべき項目やレベルがわかってきます。 タスクのプロセスの進捗だけをトラッキングするレベルで機能することもあれば、最終的には機器のユニットの振動センサーデータまで見る必要があるかもしれません。見える化を行うことで、見える化の範囲やレベルがわかってきます。
見える化の次は、そのデータを使った状況分析と改善策の立案です。問題点の特定とその対応策を様々なレベルで実装していく段階です。ここで発生してくる問題として、改善方法や対応策を実現する手段を既存システムの調整レベルで実装できないケースが多いということです。ここでもIoTフォグコンピューティング・ゲートウェイを“足し算”することで、既存システムに実装できない機能や手段をこのゲートウェイで肩代わりし、その手段を提供することができるようになります。既存システムを運用しながら、新しい対策を試作・テスト・評価検証することができ、システム改善のためのリスクを最小限に抑えられるのも大きな利点です。

そして、次の段階は拡張性です。IoT対応するということは、ほかのシステムやサービスと連携することでその価値を最大化することです。つまり、将来的な機能拡張や新しいインターフェースプロトコルの対応、そして組み込みAIなどの新しい機能の追加が重要です。これらの拡張性を“足し算”するためのアプローチとしても、IoTフォグコンピューティング・ゲートウェイのメリットは大きいというわけです。