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組み込み向けビデオ(動画)コーデックの遷移(1990年代~現在、未来)

富士ソフト株式会社では、カナダのSystem On Chip Technologies社のFPGA向けMPEG規格のコーデック(codec)を日本市場における販売店として製品展開しています。このコラムでは、私が30年以上、AIやマルチメディア、コンシューマゲーム機、組み込みブラウザや周辺技術に携わった中での経験をもとに、組み込み分野でのビデオコーデック(動画コーデック)の歴史から現在、未来について記していきたいと思います。
第一回目は、1990年代に家庭用ゲーム機(組み込み向け)の独自技術のビデオコーデックについてお話します。

※動画コーデックには、「AOMedia Video 1」「H.264/MPEG-4 AVC」「Xvid」「Divx」「VP9」「MPEG-1」「MPEG-2」「MPEG-4」「H.265/HEVC」「WMV9」「Motion JPEG」「DV」「可逆圧縮系コーデック」などがあります。これらの動画コーデックは、ファイルフォーマット(拡張子)、画質、再生不可、ファイルサイズで比較することができます。ビデオ(動画)は「動画データ」と「音声データ」からできていて容量が大きいため、エンコード(圧縮・変換)とデコード(復元)する必要があります。動画と音声を一緒に保存する場合は、コンテナにデータを収めることなります。

私が組み込み向けのビデオ(動画)・オーディオ(音声)コーデックに初めて接したのは、1992年になります。当時の16/32ビットの家庭用ゲーム機のソフトウェア開発、開発ツールおよびその技術サポートに携わっていた際、家庭用ゲームソフトの提供形態が、カートリッジ型からCD-ROMなどの光ディスク型に移行し始めたころで、ビデオコーデックを使った動画がゲームの中に利用されるようになりました。その最初の技術は、MPEG規格の技術を利用するのではなく、プロプライエタリ(proprietary)技術が主流でした。

最初に利用されたコーデックは、「Cinepak」*1というコーデック技術で、QuickTimeのビデオフォーマットの一つでした。解像度は横320×縦240という画面サイズで、フレームレートは、30fps(NTSC)もしくは25fps(PAL)で、当時のCPUスペックや光ディスク読み込み速度、光ディスク容量で実現した技術としては画期的な技術として注目されました。
その後、1995年より、Cinepakのビデオ品質を上回るTrueMotion*2というビデオコーデックによって、1994年11月に発売されたSEGA SATURN(当時セガエンタープライゼス社)という家庭用ゲーム機で利用されて、数多くのゲームソフトでこのビデオコーデックが利用されました。

当時のビデオコーデックを使った動画は、クオリティの高い自然の画像を映像化したものをエンコード、デコードするのではなく、ゲーム画像に近いCG映像をエンコード、デコードするものでしたが、TrueMotionの技術の出現で自然画も320×240というNTSC/PALの解像度と組み込みCPUで実現したとは思えない自然な動画をメディアプレイヤー(media player)で再生させることができました。
コーデックを使った動画の利用方法は、光ディスクからのゲームシステムを読み込む速度がカートリッジよりもかなり時間がかかるため、その待ち時間の際に動画再生させる、アドバタイズ的な役割で表示するという形で使用されていましたが、ゲームとしてもビデオシステムとゲームシステムをシームレス(途切れがない)で切り替え、ビデオコーデックを利用している際にゲームコントローラの操作でゲームシナリオを入力装置(ゲームパッドなど)によってシームレスで切り替えるゲームソフトが開発されるようになりました。
当時組み込み用CPUは、画像処理に必要な浮動演算処理およびそれに乗算・除算処理に時間がかかるため、固定小数点化した演算や、可能な限り乗算・除算をシフト命令で行うことで、正確な計算よりも処理能力優先で開発するという手法をとっていました。

TrueMotion技術を開発したエンジニアは、独自コーデックを設計し、品質を高める研究をしていただけでなく、家庭用ゲーム機の特性を生かすことも考えていました。
当時、家庭用ゲーム機のゲームアプリケーション開発は、アセンブラ言語からC言語に完全移行しました。本コーデックはキーとなるコードをアセンブラ言語で記述し、2つ搭載されたCPUを効率よく使ったコードにするなどの性能を高めることも行っていました。
私は、家庭用ゲーム機での独自コーデック技術が、多くの一般の方々がコーデックを使った動画に接する機会を与えた、先駆者的な役割をしたと考えています。

次回以降は、携帯電話やテレビにおける独自コーデックや、MPEG規格のコーデックについて執筆していきます。

(*1) 当時のSuperMac Technologies社(米国)の一部門のSuper Matchが開発。
(*2) 当時の会社名は、Duck Corporation社(米国・ニューヨーク州)、その後On2 Technologies社としてVPシリーズのコーデックを開発し、2009年Google社に買収された。

<記者プロフィール>
高瀬 和弘
SOC社コーデック製品、IPClock社製品を担当し、契約交渉人を兼務。
某大手SI会社の研究所にて、AIとマルチメディアの研究員として、自然言語研究開発、某社マルチメディアPCのアプリ研究開発および3D研究開発に従事。その後、某ゲーム会社で自社家庭用ゲーム機のSDK開発/国内外FAE部門の部長兼エキスパートエンジニアとして、また某組み込みWebブラウザ会社の開発統括部長と海外支社長を経て、現在に至る。ロンドンと台北に海外赴任経験あり。
妻、長男、母親の4人家族。3回目となる大学(法学)に在籍中、人工知能学会会員、趣味テニス。

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