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OpenVINO™ ツールキットによる競走馬の健康管理AI開発(前編)

このコラムでは、富士ソフトが「第3回AI・人工知能EXPO秋(2022/10/26~28)」に出展したデモンストレーションについて、目的・背景・技術について解説しています。

この前編では、OpenVINO™ツールキットの解説と、それを用いたタンパク質解析の実現例をお見せします。後編ではOpenVINO™ツールキットを馬の姿勢推定に適用し、外見からの健康管理を目指します。

ご興味ある項目を、さらに詳しく聞きたい方は、ページ最下部にあるフォームよりお気軽にお問い合わせください。

OpenVINO™ ツールキットとは

AI(このコラムではDeep Learningのことを総称してAIと呼んでいます)を生成するツールは、すでに各社から様々なものが登場しています。ハードウェアプラットフォームベンダー、チップベンダー、クラウドベンダーそれぞれから、各々の環境に最適化したAIを生成できるツールが提供されています。もちろん、環境に依存しないAI開発ツールも多くありますが、生成したAIの実行速度や組み込みやすさは、やはり各ベンダーが提供しているツールの方が勝っていることが多いようです。

インテル社からは、インテル® チップに最適化したAIを生成できるツールとしてOpenVINO™ ツールキットが提供されています。このツールは、学習環境ではなく推論環境に特化しています(学習環境は、正直なところNVIDIAを中心としたエコシステムが完成されていますので、チップベンダーとしてはあまり意義がないと考えられます)。言うまでもなくインテル社のCPUは世の中のPC・サーバーの大多数に搭載されており、OpenVINO™ ツールキットはその大多数のPC・サーバーで、チップの能力を最大限引き出すことでAI推論動作を強化できるというツールです。また、チップベンダー提供ではあるものの、様々なAIフレームワークをサポートしているため、極めて汎用的なツールと言えます。しかもOpenVINO™ ツールキットはOpen Source Softwareであり、誰もが無償で自由に利用・改修できます。

画像:「画像2」OpenVINO™ ツールキットの汎用性(インテル社Webサイトより)

また、OpenVINO™ ツールキットのもう一つのポイントは、非常に多くの学習済みAIモデルをOpen Model Zooとして公開していることです。ここでは物体検知や姿勢推定などの基本的なモデルだけではなく、運転者の行動検知や再認識が可能な人物検知など、そのまま特定用途で利用できそうなモデルも多数用意され、実用性が高いです。

Open Model Zooで公開されているモデル一覧
(https://docs.openvino.ai/latest/model_zoo.htmlの情報を筆者が抜粋)

No. カテゴリー 主要モデル
1 物体検出 顔検出モデル 人物、車両、自転車検出モデル
人物検知モデル 車両ナンバープレート検出
人物検知行動認識モデル 製品検出
2 オブジェクト認識 年齢、性別認識 ランドマーク認識
頭のポーズ推定 顔ランドマーク認識
ナンバープレート認識 人物属性認識
車両属性認識 視線推定
感情認識
3 再識別 顔の再識別 個人再識別
4 セグメンテーション 道路セグメンテーション インスタンスセグメンテーション
5 人間の姿勢推定 人物のポーズ推定
6 画像処理 画像処理
7 テキスト検出 テキスト検出 水平テキスト検出
8 テキスト認識 テキスト認識 手書き簡体中国語認識
手書き楽譜認識 手書き英語認識
手書き日本語認識 計算式認識
9 テキストスポッティング テキストスポッティング
10 アクション認識 アクション認識 手話認識
ドライバーアクション認識
11 画像検索 画像検索
12 機械翻訳 機械翻訳
13 テキスト読み上げ テキスト読み上げ
14 合成音声 合成音声
15 音声ノイズ抑制 音声ノイズ抑制
16 時系列予測 時系列予測電力

富士ソフトでは、このOpenVINO™ ツールキットとOpen Model Zoo、そしてインテル® チップを使用したハードウェアを組み合わせて、アラカルトのように機能を選んでAIシステムを構築するAIアラカルトというソリューションを用意しています。AIを開発せずにAIシステムを構築する方法にご興味がある方はぜひお問い合わせください。

画像:「画像3」

このような、一般的なPCだけでAI推論を高速化でき、また様々な学習済みモデルが用意されているのは、デモやPoCを構築するにはうってつけの環境と言えます。今回の富士ソフトのデモは、将来的な運用を考慮してコンパクトPCでの実行を想定しているので、このOpenVINO™ ツールキットの特性を活かす必要がありました。以降の章では、どのようなAIを作ったのか、またどのようにOpenVINO™ ツールキットを活用したのかについて紹介していきます。

AIプロテオミクス®

AIプロテオミクス®とは

OpenVINO™ ツールキットが有効活用されている実績が多いのは医療系です。特に医療現場では大きな高性能サーバーを置くことは難しく、汎用的なPCを使用することが多いという特性があり、汎用的なPCでも高速な推論を行えるOpenVINO™ ツールキットは相性が良いです。

今回作成したデモは、競走馬が罹患する「屈腱炎」という症状を扱っているものの、採用している「AIプロテオミクス®」は、ヒトの健康管理にも役立てることができる技術であり、最終的にはヒト向けに社会実装していくことを目標としています。まずは、行動管理・健康管理されている競走馬をターゲットに、技術蓄積と実装経験を重ねていくことにしました。
(※AIプロテオミクス®はaiwell株式会社の登録商標です)

さて、ここでAIプロテオミクス®について、少し説明します。
私たちの身体は多くの細胞から成っています。そしてその細胞を動かしているのはタンパク質です。細胞内でどのようなタンパク質が作られているのか、またそれらのスイッチのオン/オフを細胞全体で調べることで、私たちの体内で今起こっていることすべてが分かってしまうのです。体内に存在しているすべてのタンパク質の状態を網羅的、かつ、俯瞰的に観ることをプロテオミクス(proteomics)と言います。

プロテオミクスの技術の一つである二次元電気泳動法では、生体内のタンパク質の状態を1つの絵のように画像化でき、この画像が究極の生体判断法と言われていました。しかしながら、これまではこの画像を簡便かつ短時間で得ることができませんでした。
しかし、最近になって、東京工業大学ではこの画像を簡単に得る技術の開発に成功し、さらに、この技術によって得られる大量の画像(ビッグデータ)をAIにより判断することにも成功しました。

画像:「画像4」プロテオミクスによる健康管理の概要
(体育の科学Vol.71 P.415図1をもとに筆者作成)

このAIプロテオミクス®を競走馬に適用したのが今回のデモになります。
競走馬の屈腱炎はプロテオミクスで検出可能で、実際の厩舎でもニーズとしては存在しており、デモとしてわかりやすいため、このテーマを選定しました。
競走馬の屈腱炎のプロテオミクスデータをaiwell社から提供いただき、当社で学習してAIを開発しています。

OpenVINO™ ツールキットを使ったAIプロテオミクス®による屈腱炎判定の実装

AIプロテオミクス®による屈腱炎判定の学習済みモデルはTensorFlowをフレームワークに、推論処理はPythonベースで開発しました。TensorFlowで作成した学習済みモデルをOpenVINO™ ツールキットで使用する形式(以下、IR形式)に変換することで、インテル® チップ向けに最適化されます。学習済みモデルを最適化することでCPU、GPUのパフォーマンスが向上し、推論処理の高速化が期待できます。

画像:「画像5」

IR形式への変換は、OpenVINO™ ツールキットが提供しているツールを使用することで、簡単に変換できます。変換手順を以下に記します。

TensorFlowには、バージョン1.xと2.xが存在します。バージョンによって変換手順が異なります。以下は、TensorFlow 2.x向けの手順となります。

【変換手順】

1. TensorFlowを使用してモデルを読み込み、SavedModel 形式でシリアル化する。

コマンド例:

import tensorflow as tf

model = tf.keras.models.load_model(‘model.h5’)

tf.saved_model.save(model,’model’)

実行結果:

画像:「画像6」

2. Model Optimizerを使用し、シリアル化したSavedModelをIR形式に変換する。

コマンド例:

mo ––saved_model_dir model

実行結果:

画像:「画像7」

3. 読み込み処理を既存の学習済みモデルからIR形式に変換した学習済みモデルに変更する。

他の処理はそのまま使用可能でした。

このように、TensorFlowで作成した学習済みモデルをOpenVINO™ ツールキットを使うことで簡単にインテル® チップに最適化することができました。

後編では、OpenVINO™ツールキットを競走馬の姿勢推定に適用し、AIプロテオミクス®とは別の方法で屈腱炎の検出を目指します。

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