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画像技術の発展とMPEG規格の誕生、圧縮技術について 【組み込み向けビデオコーデックの遷移】

ちょうど第一回目の執筆が完了した後、3年ぶりに映画「バックトゥザフューチャー2 」(*1) (1989年公開)を見る機会がありました。主人公たちが30年後の未来(2015年10月21日)にタイムスリップし、その中で2015年の世界が表現されていました。天気の秒単位での正確予想、若返りなどの医療技術の発展、有名スポーツメーカの自動紐結びシューズ、空飛ぶ自動車など、2015年の時点では実用化されていないものも多数見られました。

その一方で、「映画内の2015年」において表現されていなかったのが、「スマートフォン」です。「現実世界の2015年」では一般的となったスマートフォンですが、映画公開時の1989年ではこのような発展を想像できなかったのではないかと思います。そして、映画の中でのジョーズの3Dホログラム映像やテレビの解像度についても、「現実世界の2015年」は表現できておらず、映像・画像技術や電子機器の進化は30年前の映画の世界では想像できなかった進歩を遂げていると改めて感じました。

私がコンピュータ業界に入社した当時(1980年代半ば)は、通信分野と蓄積分野のデジタル化と、映像や音声のデジタル化が進んでいた時期でもあり、AIの発展を目指した第五世代コンピュータやマルチメディアという言葉が流行った時期でもありました。
そして、「バックトゥザフューチャー2 」の公開から4年後の1993年、ISO/IEC JT1 (*2)によって標準化された動画像圧縮符号化標準であるMPEG(エムペグ)(*3)という規格の最初となる「MPEG-1ビデオ」が制定・公開されました。
このMPEG-1ビデオは、蓄積向けの動画像圧縮技術であり、第一回に紹介したビデオゲーム機においても、プロプライエタリのコーデック技術だけでなく、MPEG-1ビデオに準拠したビデオゲーム機向けコーデックが開発されました。当時のビデオゲームソフトウェアは光ディスクを使っており、MPEG-1ビデオ準拠のコーデックも蓄積向けにも関わらずシームレス化に完全対応していて、ビデオゲーム機のSEGA SATURNやDreamcastの映像系ゲームソフトなどに数多く利用されました。特に、マニアの厳しい目があるアニメ系のゲームソフトでも当時は高く評価され、これが日本におけるMPEG規格の普及にも繋がったのではと思います。

ビデオコーデックには2種類の圧縮技術が使われています。その1つは、パソコンでメールの添付ファイルなどに利用されるZIPやLZHという拡張子の圧縮フォーマット(可逆圧縮)です。可逆圧縮は「圧縮前のデータと、圧縮・伸張を介した結果データ」が完全に一致する圧縮技術です。もう1つは、非可逆圧縮という「圧縮前のデータと、圧縮・伸張を介した結果データ」が完全には一致しない圧縮技術です。
MPEG標準規格やプロプライエタリのビデオコーデックでは、この両方の圧縮技術が使われています。では何故、ビデオコーデックは可逆圧縮と非可逆圧縮の両方を使用しているのでしょうか?
可逆圧縮技術はデータが完全復元できるメリットがあるため、ビデオコーデック内の完全復元が必要な情報などに使用されています。しかし、元のデータを完全復元する機能であるため、画像や映像のような大きなデータを圧縮することができません。一方、非可逆圧縮の場合完全なデータの復元はできませんが、ビデオコーデックで処理するデータの大部分を占める映像や音声データの圧縮に適しています。視覚的、聴覚的な情報データの誤差(歪み)の範囲は、「人の目では見えない、人の耳では聞こえない」という誤差範囲であれば許容されるため、大幅な圧縮を可能としています。

MPEG規格は、デジタル映像技術を基本とする圧縮技術が進歩し、現在は高解像度化(フルハイビジョンや4K、8Kなど)と高速通信網に対応した映像配信、映像蓄積の実用化も進んでいます。その内容についてはまたの機会に記したいと思います。

次回は、携帯機器向けのビデオコーデックの歴史とMPEGの圧縮技術の続きについてお話をしたいと思っています。

参考文献:
 「総合マルチメディア選書MPEG」:映像情報メディア学会編、オーム社出版局
 「H.264/AVC教科書」:大久保 榮監修、株式会社インデックスジャパン社発行
 「H.265/HEVC教科書」:大久保 榮監修、株式会社インデックスジャパン社発行

(*1):マイケル・J・フォックス主演の全三部作の二番目の作品。
(*2):国際標準化機構 (ISO) と国際電気標準会議 (IEC) の第一合同技術委員会 (Joint Technical Committee 1)のことで、IT(情報技術) 分野の標準化を行っている組織。
(*3):Moving Picture Experts Group(動画像符号化専門家グループ)の略で、そのグループで作成した標準規格名称として使われている。

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