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IoTが巻き起こす”製造業のサービス化”という革命

多くの製造現場にIoTの導入が進む中、「製造業のサービス化」という言葉が聞かれるようになりました。これは、ドイツ政府発のインダストリー4.0(第4次産業革命)に端を発する取り組みで、製造業のサービス分野への進出は、ここ数年で加速しています。製造業の明暗を分けるとも言われているサービス化について、その必要性や課題を考えてみたいと思います。

インダストリー4.0の概要

概要に少し触れておくと、インダストリー4.0とは、2011年にドイツ政府が採択した次世代製造業育成施策で、2013年から実際にスタートしました。1970年代から最近までの「エレクトロニクス・ITの活用による自動化の進展」を第三次産業革命とし、その先に訪れる画期的な生産革命のことを第4次産業革命、すなわちインダストリー4.0と呼んでいます。日本でも2015年ごろから喧伝されるようになっており、ご存知の方も多いのではないでしょうか。
この生産革命を担うのは、CPS(Cyber Physical System=サイバーフィジカルシステム)というシステムの活用です。サイバーはICT(情報通信技術)を、フィジカルは生産現場を指しており、こういったCPSで構成された生産現場のことをスマート工場といいます。スマート工場では、センサーを取り付けられた機器(IoT、モノのインターネット)が多種多様なデータを吸い上げ、それを人工知能によって解析・活用し、生産性を高めていく、といったことが行われています。スマート工場によって生産効率の向上を実現するのが、インダストリー4.0の目的のひとつです。

IoTを導入したスマート工場で何が可能になるか

多品種少量生産を行う工場では、「セル生産方式」という生産方式を採用しています。部品や工具をU字型に配置した「セル」と呼ばれるラインを構成し、製品組み立ての全行程を完成まで受け持つ生産方式のことです。
セル生産方式の工場がスマート工場になることで、工場内のセルをリアルタイムかつ自由に組み合わせることもできるようになります。さらに、IoTとシステムが水平統合されていれば、別の場所にある工場のセルを、あたかも自社工場のセルのように組み合わせることも可能になるのです。水平統合された工場同士で自由にセルを組み合わせる生産方式を「ダイナミックセル生産方式」と呼んでいます。これのおかげで、製造コストと納期が大幅に改善できるのはもちろん、個々の消費者に合わせた一品一様の商品づくりが可能になります。これを「マスカスタマイゼーション」といいます。マスカスタマイゼーションは日本語で「個別大量生産」という意味ですが、実際は少し違います。マスカスタマイゼーションを正確に表すと、「従来、コスト的に不可能だった工場での単品生産を可能にする」となります。例えば、ナイキでは顧客それぞれの要望に合わせてカスタマイズした靴を、ウェブサイトから注文することができます。それも職人による手づくりではなく、ダイナミックセル生産方式によってひとつずつ工場で製造されているため、ほぼオーダーメイドの品を安く買うことができるのです。
このマスカスタマイゼーションは、インダストリー4.0の中核であるスマート工場の実現によって可能になったもののひとつで、ICTによって効率よく、低コストにオーダーメイド製品をつくり、売り上げの拡大を狙った施策といえます。

IoTによる製造業のサービス化こそが本質

スマート工場の実現によって、今後の製造業の明暗を分けるかもしれない変革を迎えています。実は、ここからが本コラムの本題です。

インダストリー4.0を語る上で登場するキーワードに、「自律性」「最適化」「柔軟性」「生産性」があります。具体的には以下のようなことです。

1. 機械が自律的に判断し、コストや時間、エネルギーのすべてを最適化するように行動する。
2. どのような指示に対しても、短時間でレスポンスする柔軟性を持つ。
3. 結果、生産性が飛躍的に向上する。

インダストリー4.0の本質は、こうした特徴をすべて叶えた上で、さらにその先にある「サービタイゼーション」と呼ばれるビジネスモデルを実現することです。では、サービタイゼーションとは何でしょうか。
これまで、製造業は文字どおり「製造」に特化した業界で、製品を製造して販売すれば終わりの「売り切りモデル」でした。ところが、工場のスマート化で多種多様なデータが取得できるようになり、人口人工知能が解析したデータを知見として活用することで、さまざまなサービスの提供が可能になりました。つまり、製造した製品を顧客に販売した後も、製品の稼働状況をデータによって把握し、稼働率向上やメンテナンスの施策などをサービスとして販売できるようになったのです。これからの製造業は、アフターマーケット情報を活用し、サービスの中身を強みに競争力を高めていく時代に突入したのです。

製造業のサービス化。そのメリットと課題

さて、こうしたサービス化が製造業にもたらすメリットには、どのようなものが考えられるでしょうか。主に以下の4つが挙げられます。

①価格競争からの脱却
顧客の期待に応えることが本質となるサービス事業は、顧客満足度をどれだけ高められたかに応じて価格を決めることができます。そのため、コモディティ化した製品の低価格競争から抜け出せる可能性があります。

②高い参入障壁
顧客と持続的な関係が築けるサービス業は、比較的参入障壁が高いと考えられます。そうなれば、安定的な収益源となる可能性があるでしょう。更にサービスに独自性を持たせることができれば、模倣困難性も高まり、競争優位をキープできる可能性もあります。

③景気に左右されにくい
顧客の手に渡った商品を対象にしたサービスの提供は、景気変動の影響を受けにくいのが特徴です。景気悪化によって新規商品の売り上げが伸び悩んでいても、ビジネスを平準化させることができます。

④サービスの提供が人を育てる
アフターマーケット情報を取得できれば、開発者・設計者の意図したことがうまく現場で実現されているかといった多くの気づきを得ることができます。製造業企業がサービス事業にも関わることで、顧客が本当に求めているソリューションとは何かや、実現するにはどうすればいいかを真に考える人材の育成にもつながるでしょう。

しかし、製造業のサービス化は、メリットばかりとはいえません。付加サービスによっては新たな人材を採用する必要があったり、保守・運用に対応できる新しい社内体制を構築しなければならなかったり、あるいは新たな決済手段や収益管理の見直しが必要になったりと、課題もあります。競合他社との競争に勝つために大事なのは、これら課題に対し前向きに検討し、根気よく対応していくことかもしれません。

製造業のサービス化の好事例

IoTを活用した日本の製造業のサービス化は、残念ながらドイツやアメリカに比べると業務の効率化の域を出ていないと言わざるをえません。しかしながら、日本にも他に先駆けてサービスモデルの創出に成功している企業もあります。
ここで、その事例を見てみましょう。

【クボタ】
農機メーカーのクボタは、作業記録を管理できる営農支援サービス「KSAS(ケーサス)の提供を開始。トラクターやコンバインなどにセンサーを搭載し、農機の稼働状況や収量、うまみ成分比率などのデータをクラウドに集約。農家はこれを分析することで、経営に生かすことができる。

【コマツ】
建設機械・鉱山機械メーカーのコマツは、ドローンとICT建機を使った建設現場の自動施工システム「スマートコンストラクション」を開発。このシステムで使われるドローンやICT建機を、グループ会社のコマツレンタルが貸し出しを行う。顧客は高額な建機を購入する必要はなく、利用した分だけ料金を支払う。

【ブリヂストン】
巨大タイヤメーカーのブリヂストンは、鉱山用ダンプカーのタイヤの使用状況や交換時期を一括管理するサービスを開始。タイヤに取り付けたセンサーからは、空気圧や温度、摩耗状況、走行中か保管中か、などのデータが送られてきて集約。走行中か保管中といった稼働状況も把握する。今回導入する新システムがこれらのデータを分析し、タイヤ交換の適切な時期を顧客に提案する。

ご覧のとおり、これら事例は大手企業のもので、中小製造業はIoTの導入こそすれ、まだまだサービス化には至っていません。だからこそ、他社より早くビジネスモデルの転換を図ることが必要かもしれません。

製造業はIoTで新たなサービスを生む時代
こうした新たなビジネスモデルは、製造業にとって千載一遇のチャンスでもあり、ある意味では競争に乗り遅れた企業は淘汰されてしまうということでもあります。製造業に携わる方々にしてみれば、決して看過できない大変革なのではないでしょうか。

あのGEですら採用!IoT導入の勝敗を分ける「業務提携」

とはいえ、こうしたIoTシステム一式をすべて自前で揃えよう、と言いたいわけではありません。というより、そのようなことは不可能と言ってもいいでしょう。
あの有名なアメリカのコングロマリット企業であるゼネラルエレクトリック社(以下GE)ですら、IoTシステム構築には業務提携を採用しているのですから。

たとえば、GEが主催する高速ネットワークの実証実験では、以下のような分業が行われています。
・広域分散したインフラ設備(モノ)→GEが担当
・ネットワーク→シスコが担当
・ビッグデータのリアルタイム処理および自動制御→アクセンチュアが担当

自前にこだわりすぎて中途半端なシステム構築になってしまうと、リスクが大きくなる可能性があります。自社の強みを発揮できる箇所はどこか、他社と協業すべき点はどこか、などを見極め、柔軟な思考で投資戦略を立てることもIoT導入の勝敗を決める重要ポイントのひとつではないでしょうか。

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