COM Expressとは:規格の成り立ちとPICMG標準
COM Express(Computer On Module、コンピュータオンモジュール)とは、SOM(System On Module)の一種で産業用コンピュータの国際的な標準化団体であるPICMG(PCI Industrial Computer Manufacturers Group)によって策定、管理されているCOMの新しい標準規格です。同じCOM Expressの規格に準拠していれば、メーカーに依存しない互換性と供給の安定性が担保されています。
COM Express規格ではモジュール側の信号ピン配置やインターフェース構成、ボードサイズなどが規定されており、どのメーカーのCOM Expressモジュールでも、PICMGが定める規格に準拠したキャリアボードに挿せば動作することを目指しています。
PICMG規格に準拠したCOM Expressであれば、キャリアボードと組み合わせて柔軟なシステム設計が可能で、産業用PC、IoT、医療機器、自動運転、5G基地局、航空宇宙、防衛、ロボット制御など幅広い用途に適し、高性能・高耐久が求められる分野で広く採用されています。長期運用にも適していて、エッジコンピューティングやリアルタイム処理が求められるシステムにも活用されています。
COM
COM(Computer On Module、コンピュータオンモジュール)とは、CPU・チップセット・メモリ・主要インターフェースなどを小型のモジュール基板に集約し、専用のコネクタ経由でキャリアボード(ベースボード)に載せて使うためのコンセプト/規格群の総称です。
PICMG
PICMG(PCI Industrial Computer Manufacturers Group)は、CompactPCIやAdvancedTCAなど、多くの産業用コンピュータ規格を標準化してきたコンソーシアムであり、複数ベンダー間の互換性・長期供給・拡張性を確保するためのオープンスタンダードを定めています。
COM Expressの主な規格
フォームファクター(物理サイズ)
代表的なフォームファクターは以下の通りです。
| フォームファクタ |
寸法 |
特徴・主な用途 |
| Mini |
84×55mm |
小型のフォームファクタで、クレジットカードサイズ。モバイル機器や小型ハンドヘルド端末など、スペース制約の厳しい装置やポータブルな機器向けです。 |
| Compact |
95×95mm |
バランス型。多くの産業機器で採用。Basicより一回り小さいサイズで、省スペース機器や中性能帯の装置に適します。FAコントローラや組み込みPCでよく採用されます。 |
| Basic |
125×95mm |
高性能CPUを搭載可能な標準サイズ。比較的大型で、ハイエンドCPUや多数のI/Oを搭載する用途向け。産業用PCや画像処理装置など、高性能が求められる分野で利用されます。 |
| Extended |
155×110mm |
サーバークラスのCPUや大容量メモリ向け。 |
Type(ピン配列・I/O構成)
COM Expressには、ピン配列とI/O構成の違いによるTypeも定義されています。代表的なものは次の通りです。
Type 6(産業用PC)
LVDS/eDP/DisplayPort/HDMIなどのグラフィックス出力と、汎用PCIeレーンをバランス良く備えたタイプです。産業用PC、HMIパネル、デジタルサイネージ、画像処理装置など、画面表示と汎用拡張が必要なFA機器で広く採用されています。
Type 7(ネットワーク)
グラフィックスインターフェースを持たず、その分を10GbEクラスの高速ネットワークや多数のPCIeレーンに振り分けたタイプです。ヘッドレスサーバー、エッジサーバー、ネットワーク機器など、ネットワークスループットやI/O帯域を重視する用途に適しています。
Type 10(小型デバイス)
よりコンパクトなフォームファクタ向けに定義されたタイプで、組み込み用途に必要なインターフェースをコンパクトにまとめています。小型機器やスペース制約の厳しい装置で利用されます。
COM Express採用のメリット
PICMG標準のCOM Expressを採用することで、組み込み機器・産業機器の開発には以下のようなメリットがあります。
CPU世代交代への柔軟な対応
CPUのEOLや性能向上への要求があった場合でも、基本的にはCOM Expressモジュールだけ差し替えることで、キャリアボード設計や筐体設計を大きく変えずに対応できます。
設計資産の再利用と開発期間の短縮
製品ごとに異なるI/Oや電気仕様はキャリアボード側に集約し、CPU周りは共通のCOM Expressモジュールを利用できます。これによりシリーズ機種展開やOEM展開がしやすく、設計の再利用性が高い構造になります。
長期供給・マルチベンダー調達
PICMGのオープン標準に基づいているため、複数ベンダーからモジュールを調達できます。長期供給の面でも、特定ベンダーへの依存度を下げたリスク分散が可能です。
高性能と信頼性の両立
PCアーキテクチャの最新CPU・チップセットを搭載でき、産業用途に求められる温度範囲や信頼性に配慮したモジュールが各社から提供されています。これにより、高い演算性能と産業用途での安定稼働を両立できます。
COM Expressは、高性能&拡張性を求める組み込みシステムに最適なソリューションです。
COM Expressで採用される主なインターフェース技術
COM Expressでは、PCアーキテクチャで一般的なインターフェースがモジュールとキャリアボードの間に引き出されています。代表的なものを簡潔に整理すると以下の通りです。
PCI Express(PCIe)
高速シリアル方式の汎用拡張バスです。レーン数(x1 / x4 / x8など)によって帯域を柔軟に拡張でき、LANコントローラ、追加ストレージ、FPGA、独自拡張カードなど高帯域を必要とする周辺回路の接続に用いられます。
Serial ATA(SATA)
HDDやSSDなどのストレージ接続に用いられるインターフェースです。COM ExpressモジュールからSATA信号がキャリアボードに引き出され、そこに2.5インチSSDやSATA DOM(Disk On Module)などを接続して使います。
USB
USB 2.0 / USB 3.xなどのポートが複数系統用意されており、キーボード・マウス・USBメモリのほか、USBカメラや無線モジュールなど、周辺機器との柔軟な接続を実現します。
LAN(Ethernet)
GbEクラスのEthernetポートが一般的で、産業ネットワークやクラウド接続のための有線LANとして利用されます。タイプによっては複数ポートや10GbEクラスに対応したものもあります。
このほか、LVDS/eDP・DisplayPortなどのディスプレイインターフェース、I²CやSPI、GPIOといった低速制御系インターフェースも規格内で定義されており、キャリアボード側で用途に応じた形に引き出します。